このページは洋楽出身のタカハシクミコが、邦楽器や邦楽の演奏家と接して「あれれっ!」
と思ったことを、能の囃子で用いられる能管の唱歌「ヲヒャラ」に例え、綴ったものです。
「『夢幻能』っていうタイトルのCD下さい!」
これはある舞台の1シーンで演出家より「ここには『夢幻能』のような雰囲気の曲を入れて
下さい。」と言われた時のこと。当時、私は能を全く知らなかった。
「夢幻能」とは簡単に言えば「劇の主人公がワキの夢に現れてくるもの」であって、能の種
類のことである。
それなのに、嗚呼それなのに私は「曲目」とばかり思っていた。
で、そのようなCDが一体どこで売っているのかも知らないから、取り敢えず当時一番大きな
CDショップで店員さんに尋ねたのである。しかし、その店員さんもわかってはいなかった。
結局、そのフロアの店員さんを総動員して検索してもらったものの「お客さま、そのような
CDは当店では扱っておりません。」の回答を得るのが関の山だった。
これが今の日本の音楽の現状なのだ。しかも私は音楽に携わりながらも、そのことに全然気
付かなかったのである。
しかしハズカシながらも、これが私の邦楽第一歩。まだまだ始まったばかりなのである。
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余談コーナー
CDショップに邦楽関係のものを買いに行くと、今でこそ邦楽のコーナーがわずかながら存在
するが、少なくとも5、6年前位までは、よくわからないけれど「エスニック」のコーナー
に吸収されていた。今現在は、ようやく邦楽も一般に認知されつつあるが、邦楽ワ行「渡辺
美里」さんの後に、純邦楽「尺八」のコーナーがあったときには驚いた!
「英語能」
ある試演会で「松風」という能のキリ(最後の部分)の謡を取り出して、お囃子の代わりに
コンピューターで作成した音を付け加えた作品を発表したことがある。
作曲にあたって、まず謡そのものを五線で記譜してみようと思った。しかし大ノリ(一音節
を一拍にあてる)の部分は比較的、記譜しやすかったのだが、それ以外の所は、拍、音程共
に、五線での記譜の範疇を超えていた。
しかしそんな中、リチャード・エマート氏が英訳した「英語能」というCDを入手した。
都合よく「松風」のキリの部分が収録されていて、地謡7名のうち3名がエマート氏を含む
外国の方だった。英語で謡っていること以外、元の日本語のものと、寸法も囃子の手も同じ
であったが、その謡を聞いた途端、私の中で「ドレミ」が鳴った!そしてあんなに苦労した
五線での採譜も一度に出来てしまったのである。
つまり、私は日本人の格好はしているものの西洋音楽の枠組みでしか音楽をとらえる事が出
来ない「変な日本人」だったのだ。しかも悲しい事に、日本語での謡は殆ど聞き取れず、英
訳された謡は、しっかりと聞き取れ、意味も大変よくわかった。
日本人失格!!!
「はじめてのお稽古」
いろいろな人との巡り合わせで、能の「大鼓」を習えることになった。
「能」を知るには、まず「謡」からと言うが、あの声の出し方がどうも苦手で敬遠をしてい
た。しかし能に関係するものを何か習いたかったのである。
はじめてのお稽古はお辞儀に始まり、お辞儀で終わった。曲は「熊野」のロンギと呼ばれる
部分であった。ところが一鎖も打てない!私の思っている拍と謡が見事に合わないのである。
それもそのハズ、謡のある部分では、乱暴な言い方をすれば、囃子の手は拍に付いているも
のではなく謡に付けられたものなのだ。まず「謡」からと言うのは、こういう事だったのだ。
それに私は大鼓が「ヤ、ハ」とかいう掛け声をかける事を知らなかった。誰か他の人が、か
けているんだろうと思っていた。しかもかなりディープでヘビーだ!「えっ!そんな掛け声
かける位なら、謡の方がまだハズカシくないかも?」と思ったが、もう遅かった、、、。
今ではなんの躊躇もなく「ヤ、ハ」とか言っているが、まだ「ハ、ホンヤヲ〜〜〜」ってト
コはハズカシくてたまらない。
「合掌」
N.Y.の小さな劇場で「Buto Zen Performance & Zen Sound with Bamboo Flute」とい
う舞台の音楽を担当した時のこと。日本を経つ数日前に舞踏の出演者がドタキャン!してし
まった。で、仕方なく、本当に仕方なく、私が舞った、、。一生に一度のことだろう。
終演後、観客は何を勘違いしたのか?舞台中央で座禅している私に向かって合掌していた。
その後、日本の音楽について、あるいは楽器について質問攻めにあったが、私は何ひとつ充
分に説明することが出来なかった。むしろ日本の音楽に興味を持っている外国人の方が、は
るかに日本のことを熟知していた。情けなかった。
ちなみに一番、答えに困った質問。「あなたは作曲者なのに何故、舞っているのか?」これ
に対しては、ただただ無気味な笑いを浮かべるしか方法がなかった、、、。
「摩訶不思議琵琶譜」
ある薩摩琵琶奏者から「弾法」の書かれた琵琶譜を見せてもらったことがある。
黒い三角、白い三角、丸、、、、。何コレ?という感じ。書いてある通り順番に弾いてもら
うものの、一体何処を演奏しているのか全くわからず愕然とした。
しかし何度か聞いているうちに、私なりの解釈法をあみ出した。あまりにバカげているので
真似しないで頂きたいのだが、、、。
まず、目を細める。それから決して三角やら丸を見てはいけない。そのスキマの距離を見る
のである。それによって、おおよその音価(音の長さ)がわかる。また流派によって記譜の
方法も異なるのだが、数字の書いてあるものは、調絃を考慮しつつ、そこから音程を探れば
よいのである。細かい奏法については、その後のことだ。
それにしても琵琶は本当に作曲の時に困る楽器の一つである。そう気軽に手に入る楽器では
ないし、もちろんそう簡単には弾けない楽器だからだ。
「ネット・オークションにて(1)」
ネット・オークションにて¥13.000で琴を購入した。
以前25絃箏の曲を書いたことがあったが、琴すら持っていず、かなり苦労したからである。
しかし送られてきた琴には琴柱も爪もついていなかった。
そこで、まず琴柱を購入しようと邦楽器店へ。洋楽上がりの人間が邦楽器店に行く時は何故
か緊張する。敷居が高いような気になるのは私だけだろうか?
その店の人が薦めてくれた琴柱は、だいぶ小さなものに感じられた。何故なら私は、今まで
17絃や25絃の大きな柱しか、間近で見た事がなかったからだ。
それで緊張していたせいか、かなりうわずった声で「こーゆう、オモチャみたいんじゃなく
ってーー、ちゃんとしたの下さい!!!」と言ったら、笑われた。あーハズカシ。
その後、またもやネット・オークションにて象牙の琴爪を購入し、早速使用してみるものの、
指が痛くてたまらない。ついには爪の付け根が腫上がってしまったのだ。もうガマンの限界
に達した時「ベリッ」と鈍い音が、、。琴爪と皮が剥がれてしまったのだ。
この時、はじめて気が付いた。琴爪を逆さまに付けていたことを、、、。
「ネット・オークションにて(2)」
ネット・オークションにて三味線を購入した。
ネット上では「民謡本格三味線!」とだけ書いてあり、それが一体何棹なのか(太棹か、中
棹か、もしかして細棹なのか?)がはっきりしなかった。写真も載っていたが、三味線の知
識のない私に見ただけで判断できるハズもなかった。
数日後、その三味線は送られてきた。実際手にとってみるものの、やはり何の棹か判らない。
棹がわからないと、それに見合った撥や駒も買えない。しかし三味線を使用した急ぎの編曲
の仕事があり、とにかく音を出したかった私は、適当に撥、駒を、やはりネットで購入した。
とりあえず見かけ上、「三味線」らしくなった。が、おそらく組み合わせのバラバラなおか
しな三味線となってしまったに違いない。おまけに無理な調絃からか糸が切れてしまい、ま
たもや問題発生!糸を購入したくとも、どの種類の糸をどの場所(一の糸、二の糸、三の糸)
にはったらいいかわからず、買う事もできない。質問の仕方すらわからない。
結局その三味線は、今や見るも無惨な姿となり、ピアノの下に放置されている。
かわいそうな三味線よ。はやく救出せねば、、、。